WhisperPair の検査漏れは、1 社のミスではなく、複数のベンダーとチップで同じように起きました。このページでは、論文("WhisperPair"、IEEE S&P 2026)が挙げる原因と対策を紹介し、自分のイヤホンが対象かを確かめる方法と、Soundcore A25i を実機で試した結果を書きます。最後に、このノート全体の要点をまとめます。

見逃された 3 つの段階

論文の原文を読んだ範囲では、ペアリングモードのときだけ受け付ける、という条件が、仕様では アプリケーション層の状態チェックに頼っていました。暗号では強制されていません。そのチェックが、次の 3 つの段階で見逃されました。

  • 実装:Google との会議で確認したこととして、ベンダー(Sony・Google・JBL などの大手を含む)が「ペアリングモードの検査を省く」ことが多いといいます。加えて、Bluetooth チップのメーカーが、仕様と違うファームウェアを出しています
  • 検証:ベンダーが認証の前に使う Google の Validator アプリは、Key-based Pairing の要求をペアリングモード外で受け付けるかを試していませんでした。Google は、この不足を認め、Validator を直したと伝えたそうです
  • 認証:Google が認める研究所での適合試験にも、不備のある製品が合格しました。Google は、認証の手順も更新したと述べています。論文は、「受け付けてはいけない場面で受け付けないか」という否定形のテストが無かったことを、多くのベンダー・チップで同じ問題が出た理由としています

複数のチップ・製品で同じ振る舞いが出たのは、共通の上流(参照スタックや統合の手引き)に原因があるからで、個々の開発者のミスではなく、仕組み全体の失敗だと論文は見立てています。価格と安全性も相関しません。論文の評価では、Sony の WH-1000XM6 は全部の攻撃に脆弱で、HP の Poly VFree 60 は全部に耐えました。

直す方法

論文の 7.3 節は、3 段階の対策を挙げています。

  1. すぐできること:ファームウェアでペアリング状態の検査を強制します。Validator の試験を広げ、仕様の適合条件の文言を強めます
  2. 端末側:すでに接続済みのアクセサリが新しいホストにつながったとき、ユーザーへ知らせます
  3. 根本:論文が提案する IntentPair。ペアリングの意思を鍵の作り方に組み込み、ペアリングモードのときか、以前の所有者だと証明できるときだけ成功するようにします。既存の通信と互換で、Google とは検討の場で議論しました。採用されたかは、論文に書かれていません

自分のイヤホンは対象か:Soundcore A25i

利用者ができることは、ファームウェアの更新の有無を確かめることだけです。まず、自分の機器が対象かを調べます。

  • whisperpair.eu の対象機器の一覧に、A25i は載っていません。一覧に載る Soundcore は Liberty 4 NC(Realtek RTL8976)だけで、状態は「Vulnerable」でした
  • 論文が試したのは、Fast Pair 認証済みの 25 製品で、台数より、チップとベンダーの幅を優先して選んでいます。載っていないことは、対象でない証明になりません
  • A25i の取扱説明書(A3948C)に、Fast Pair の記述は無く、書かれているのは、両耳のタッチパッドを 3 秒長押しして、Bluetooth の一覧から選ぶ手動の手順だけです。ファームウェアの更新は、Soundcore アプリにつなぐと通知され、アプリから行います

一覧にも説明書にも根拠がないので、実機で確かめました。Fast Pair 対応の機器なら、ペアリングモードのとき、近くの Android のスマホに接続案内が出ます(1 ページ目)。

案内が出ないことは、A25i が Fast Pair の広告を流していない(Fast Pair に対応していない)可能性が高いことを示します。ただし、出ない理由は他にも考えられるので、断定はしません。WhisperPair は Fast Pair の仕組みへの攻撃なので、対応していなければ、この脆弱性の対象になりにくいと考えられます。A25i のファームウェアの更新履歴は、Soundcore のサイトに見当たらず、取得していません。

このノートの要点

  • 知らない人のイヤホンについて自分のスマホに出る「接続しますか」は、機器が宛先なしで流す広告(Model ID)を、近くのスマホが拾って出す通知で、仕様どおりの動作です
  • ペアリングモードでないとき、機器は Account Key Filter(ブルームフィルタ)を広告する。鍵そのものは流れません。誤検出率は実測で鍵 10 件まで 0.5% 未満でした
  • 仕様には「ペアリングモードでなければ無視する」という 1 行がある。その検査が実装・検証・認証で見逃され、WhisperPair(CVE-2025-36911)になりました。設計ではなく実装の問題で、直せるのはファームウェアの更新だけです
  • 手元の Soundcore A25i は、ペアリングモードでも接続案内が出ませんでした。一覧にも載っていないので、対象かどうかの断定はできません