このページでは、食レポで「おいしい」を使わずに伝える方法を扱います。やることは 2 つです。「おいしい」「やばい」を封印すること、そして食べる順に五感を 1 つずつ拾うことです。

見ている人に届くのは目と耳だけ

食べている本人は、香りも温度も食感も味も受け取っています。画面の向こうの人に届くのは、映像と音だけです。香り・食感・味は、言葉にしない限り伝わりません。

「おいしい」は、この 3 つをまとめて 1 語にした言葉です。本人の中では中身が詰まっていても、聞く側には「この人は満足した」という結論しか届きません。何がどうおいしいのかは、聞く側が想像で埋めるしかありません。

「おいしい」を封印すると、探すしかなくなる

いちばん効く練習は、「おいしい」「やばい」「うまい」を言わないと決めることです。言えなくなると、何がよかったのかを口の中から探すしかなくなります。

探すときの足場が、次の節の「時間順」です。

食べる順に拾う

口に入れる前から飲み込んだ後まで、感じる順に並べると、拾い漏れが減り、聞く側も同じ順で追体験できます。

  1. 見た目:色、ツヤ、湯気、断面
  2. 音:焼ける音、揚げたての衣を割る音、噛んだときの音
  3. 香り:口に入れる前の香りと、口に入れてから鼻に抜ける香り
  4. 食感:最初のひと噛み、噛んでいる途中、飲み込むとき
  5. 味:最初に来る味、途中で出てくる味、後に残る味

食感を「ひと噛み目・途中・飲み込むとき」に分けるのは、思いつきではありません。食品のテクスチャー(食感)を研究してきた早川文代さんは、食感が食べている間に変わることを、官能評価で用語を選ぶときの難しさとして挙げています。

食品のテクスチャーは、多くの場合、不均一であり、食べている間に大きく変化し、また、一噛み目、咀嚼中、嚥下時ののどごし等、摂食段階のいずれで感じられるテクスチャーがその食べ物のテクスチャーを特徴づけるかは、食べ物によって異なる。

出典: https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/41/2/41_148/_pdf(取得日: 2026-09-27)

研究者が評価項目を決めるときに段階を分けるのなら、食レポでも分けて言えば情報が増えます。たとえば唐揚げなら、ひと噛み目の衣と、噛み進めたときの肉汁は別のものです。

変化を「最初は〇〇、あとから△△」で言う

時間順に拾うと、自然に「変化」が見えてきます。変化を言うと、聞く側は時間の流れごと想像できます。

  • 「最初は衣のサクッとした音がして、あとから肉汁があふれてきます」
  • 「最初は甘いのに、飲み込んだ後にしょうがの辛さが残ります」
  • 「口に入れた瞬間は冷たくて固いのに、舌の上でゆっくりほどけていきます」

どれも「おいしい」を使っていませんが、どうおいしいのかは伝わります。

表情が先、言葉はあと

口に入れてすぐにしゃべり始めると、まだ何も感じていないうちに言葉を探すことになり、結局「おいしい」に戻ります。1〜2 秒は黙って噛み、表情で反応してから話すと、言葉を探す時間ができます。見ている側にとっても、表情が変わる瞬間は映像で伝わる情報です。

まず 1 つやるなら

次に何かを食べるとき、「おいしい」を言わずに「最初は〇〇、あとから△△」の形で 1 文だけ言ってみてください。食感の言葉が足りないと感じたら、それが次のページの話です。